令和元年改正会社法~ポイント解説No.7
社債権者保護の観点から新設された「社債管理補助者」(改正会社法676条8号の2、714条の2)について紹介します。
改正前にも、会社が社債を発行する場合には社債権者保護の観点から、原則として「社債管理者」を定めることが必要でしたが(会社法702条本文)、①1億円以上の社債を発行する場合や②50口を下回る社債の発行の場合には「社債管理者」を設置せずに社債を発行できるため、多くの場合「社債管理者」を設置せずに社債が発行されている現状があります。そこで、より簡便な形で社債の管理事務を委託できる方策として「社債管理補助者」の制度が新設されました。
会社は,その発行する社債を引き受ける者の募集をしようとするときは,その都度,募集社債(当該募集に応じて当該社債の引受けの申込みをした者に対して割り当てる社債をいう。以下この編において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。
七の二 社債管理者を定めないこととするときは,その旨
八の二 社債管理補助者を定めることとするときは,その旨
改正会社法676条
会社は,第七百二条ただし書に規定する場合には,社債管理補助者を定め,社債権者のために,社債の管理の補助を行うことを委託することができる。ただし,当該社債が担保付社債である場合は,この限りでない。
改正会社法714条の2
「社債管理者」も「社債管理補助者」も、社債発行会社から社債の管理事務を委託される機関ですが、「社債管理補助者」の方が権限が限定的で、その分設置が容易となっています。 受験対策上、どこまで詳しく両者の差異を把握するかは難しいところですが、これくらいなら、というところを以下で挙げておきます。権限については、最低限「社債管理補助者」は社債権者集会の決議を要する事項が多いことを覚えておきましょう。
- 「社債管理者」「社債管理補助者」の資格要件:①銀行、②信託会社、③法務省令で定める者
- 「社債管理者」「社債管理補助者」の義務:公平誠実義務・善管注意義務(会社法704条、改正会社法714条の7)
- 「社債管理者」「社債管理補助者」の責任:会社法・社債権者集会決議に違反する行為をしたときは、社債権者に対して損害賠償責任を負う。
- 「社債管理者」の権限:社債権者のために社債に係る債権の弁済を受け、又は社債に係る債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限(705条1項)
- 法定権限:下記1~7
- 社債権者集会の決議が必要:下記8.9(706条).
- 「社債管理補助者」の権限:
- 法定権限:下記1~3(714条の4第1項)
- 会社との委託契約による権限:4.5.(714条の4第2項)
- 会社との委託契約による権限で社債権者集会の決議が必要:6~9.(714条の4第3項)
- 破産手続き・再生手続き・更生手続きに参加
- 強制執行・担保権の実行手続きにおける配当請求
- 清算時の債権の申し出
- 社債にかかる債権の弁済を受ける
- 社債権の実現の保全に必要な一切の裁判上又は裁判外の行為
- 社債全部の支払いの請求
- 社債全部に基づく強制執行・仮差し押さえ・仮処分
- 社債全部の支払いの猶予・債務不履行によって生じた責任の免除・和解
- 社債の全部についてする訴訟行為、1.に属する行為
その他、社債の管理に関する改正として、「社債管理者」は社債権者集会の特別決議により元利金の免除を行える旨が明記されました(改正会社法706条1項1号)。改正前は「和解」の内容と解釈されていましたが、これが明文化されました。「社債管理補助者」も社債権者集会決議によって社債の全部まはた一部を免除できます(改正会社法714条の4第2項第3項)。
また、社債権者集会の決議は、原則として裁判所の認可を受ける必要がありますが(会社法734条)、議決権を行使できる社債権者全員が書面または電磁的記録により同意の意思表示をしたときは可決の決議があったとみなされ、その際には裁判所の認可は不要とされました(改正会社法735条の2)。
1 社債発行会社,社債管理者,社債管理補助者又は社債権者が社債権者集会の目的である事項について(社債管理補助者にあっては,第七百十四条の七において準用する第七百十一条第一項の社債権者集会の同意をすることについて)提案をした場合において,当該提案につき議決権者の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは,当該提案を可決する旨の社債権者集会の決議があったものとみなす。
4 第一項の規定により社債権者集会の決議があったものとみなされる場合には,第七百三十二条から前条まで(第七百三十四条第二項を除く。)の規定は,適用しない。
改正会社法735条の2