出題範囲の追加①~株式報酬の会計処理
公認会計士・監査審査会から1月14日に公表された「出題範囲の要旨」(令和4年5月公認会計士短答式試験より適用)では、財務会計論には「株式引受権」が、監査論には「その他の記載内容」が追加されていました。企業会計審査会が公表した「監査に関する品質管理基準」の改訂については範囲外となったようです。
今回は、「株式引受権」について再確認していきたいと思います。令和1年の会社法の改正で整備された「株式報酬」について、企業会計基準委員会から「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」 が公表され、この中で「株式引受権」という勘定科目が登場しました。「株式報酬」とは、会社が取締役等の報酬等として金銭の払い込みなく自社の株式を交付するものです。ストック・オプションと同様のインセンティブ効果を狙ったものであり、会計処理も酷似しています。株式の無償交付の方法には (1)事前交付型と(2)事後交付型があります。
(1)事前交付型の会計処理
対象勤務期間(報酬の付与開始~権利確定)開始後すぐに株式が交付され、業績条件や勤務条件といった権利確定条件が達成された場合に付与された株式の譲渡制限が解除されます。付与される株式は、①新株を発行する場合と②自己株式を処分する場合があります。
①新株を発行する場合
1. 株式の付与時点では、発行済株式数が増加するだけで会計処理は必要ありません。
2. 取締役等のサービスが提供され、株式報酬が発生するに応じて資本金・資本準備金に組み入れられていきます。報酬費用の計算方法は、ストック・オプションを付与したときの株式報酬費用の計算方法と同じです。
3. 権利確定条件が達成できなかった場合には、交付された株式は没収されます。会社側からすると自己株式を取得することになりますが、会計処理としては自己株式数が増加するだけです。
仕訳は以下の通りとなります。
借方 | 貸方 | |
1.株式の付与 | 仕訳なし | |
2.報酬の提供 | 報酬費用 | 資本金・資本準備金 |
3.権利不確定 | 仕訳なし |
② 自己株式を処分する場合
1. 自己株式を処分する時点では、付与する自己株式の帳簿価額だけその他資本剰余金と相殺します。
2. 取締役等のサービスが提供され、株式報酬が発生するに応じてその他資本剰余金を増加させます。これにより、自己株式処分差額がその他資本剰余金として処理されることになります。
3. 権利確定条件が達成できなかった場合には、交付された株式は没収されます。会社側からすると自己株式を取得することになります。相手勘定はその他資本剰余金で処理されます。
仕訳は以下の通りとなります。
借方 | 貸方 | |
1.株式の付与 | その他資本剰余金 | 自己株式 |
2.報酬の提供 | 報酬費用 | その他資本剰余金 |
3.権利不確定 | 自己株式 | その他資本剰余金 |
(2) 事後交付型の会計処理
権利確定条件が達成された場合に株式が交付されます。権利確定までの会計処理は、ストック・オプションの権利確定までの会計処理と同じで、用いる勘定科目が異なるだけです。
1. 付与時点での会計処理はありません。
2. 取締役等のサービスが提供され株式報酬が発生するのに応じて、「株式引受権」が計上されます。ストック・オプションが付与される場合の「新株予約権」の無償版です。
3. 権利確定条件が達成されると、新株発行の場合は「株式引受権」が資本金等に組み入れられ、自己株式処分の場合は「株式引受権」が自己株式処分の対価となります。
仕訳は以下の通りとなります。
借方 | 貸方 | |
1. 権利付与 | 仕訳なし | |
2. 報酬の提供 | 株式報酬 | 株式引受権 |
3. 権利確定 | 株式引受権 | 資本金等 |
株式引受権 | 自己株式 |