2020改訂監査基準を踏まえた監基報改正ポイント~315号

監基報315号はタイトルから改正され「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」になりました。こちらも2023年3月期の監査から強制適用となります。

315号改正の背景

315号の改正の背景にはISA(国際監査基準)315の改正があるそうですが、受験上は、監督機関の検査結果としてリスク評価に関する指摘があること、昨今の企業評価・財務諸表作成におけるITの重要性の高まりからITに関連する監査上の対応の拡充があることを確認しておけば十分ではないでしょうか。

315号改正のポイント

主要な改正点について紹介します。

  1. 固有リスクと統制リスクを分けて評価すること。重要な虚偽表示リスクが固有リスクと統制リスクから構成されているという理解は従来通りですが、これらを分けて評価する、とされました。「取引種類、勘定残高又は注記に係るアサーションのうち、重要な虚偽表示リスクが識別されたアサーション」を「関連するアサーション」と新たに定義づけているのですが、この「関連するアサーション」であるかの判断は関連する内部統制を考慮する前に行うとされていいます。つまり、重要な虚偽表示リスクの識別は内部統制を考慮せずに固有リスクとして識別することになりました。これは内部統制を過大評価し、重要な虚偽表示リスクを安易に低く評価していた実務があったことを背景としているそうです。
  2. 固有リスク要因」概念の考慮。「固有リスク要因」は、「関連する内部統制が存在しないとの仮定の上で、不正か誤謬かを問わず、取引種類、勘定残高又は注記事項に係るアサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼす事象又は状況の特徴をいう。」と定義されています。固有リスク要因は定性的又は定量的な要因であり、①複雑性、②主観性、③変化、③不確実性、④経営者の偏向又はその他の不正リスク要因が固有リスクに影響を及ぼす場合における虚偽表示の生じやすさが含まれ、「固有リスク要因」がどのように、どの程度、アサーションにおける虚偽表示の生じやすさに影響を及ぼすかを検討することが求められています。
  3. 「特別な検討を必要とするリスクの定義の変更。従来は「特別な監査上の検討が必要と監査人が判断したリスク」というようにリスク対応手続きから定義されていた「特別な検討を必要とするリスク」が、「虚偽表示の生じる可能性と、当該虚偽表示が生じた場合の金額的及び質的影響の双方を考慮して、固有リスクが最も高い領域に存在するリスク」とリスクの性質にフォーカスした定義に変更されました。先行した改訂監査基準においても同様に定義されています。
  4. 重要な取引種類、勘定残高又は注記事項。重要な虚偽表示リスクが識別されたアサーションを「関連するアサーション」と定義し、「関連するアサーション」が1つ以上存在する取引種類、勘定残高又は注記事項が「重要な取引種類、勘定残高又は注記事項」とされました。よく似た表現に「重要性のある取引種類、勘定残高又は注記事項」というものがあります。こちらは財務諸表利用者の経済的意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる取引種類、勘定残高又は注記事項であり、例えば、製薬会社の試験研究費等が該当します。両者は異なる視点から定義づけられていますが、「重要な取引種類、勘定残高又は注記事項」は「重要性のある取引種類、勘定残高又は注記事項」に包含される概念であり、監基報330号「評価したリスクに対応する監査人の手続」において、どちらも実証手続きが要求されています。
  5. 内部統制に関する用語の明瞭化。従来の「内部統制」が「内部統制システム」と「内部統制」の2つの概念に定義し直されました。「内部統制システム」とは、企業の財務報告の信頼性を確保し、事業経営の有効性と効率性を高め、事業経営に係る法令の遵守を促すという企業目的を達成するために、経営者、取締役会、
    監査役等及びその他の企業構成員により、整備及び運用されている仕組みをいい、
    内部統制」とは、企業が、経営者又は取締役会、監査役等の統制目的を達成するために策定する方針又は手続をいいます。「内部統制システム」は、①統制環境、②企業のリスク評価プロセス、③内部統制システムを監視する企業のプロセス、④情報システムと伝達、⑤統制活動という5つの要素から構成されるとし(これは従来の内部統制の構成要素から変更なし)、①②③④については理解が求められる項目と評価が求められる項目が記載され、⑤統制活動については識別してデザインと業務への適用の評価が必要と内部統制が明確化されています。
  6. ITの全般統制。ITの全般統制に関する記述が拡大されています。法定監査が必要な規模の会社に限らず、会計システムを含む情報システムはIT化されており、ITの利用の進化に応じた基準の強化が実施されました。これに関連して、ITに関連する定義(情報処理統制、IT全般統制、IT環境の定義)も設定されました。
  7. 職業的専門家としての懐疑心の強調。監基報315号全体を通して職業的懐疑心が強調されています。