令和元年改正会社法~ポイント解説No.4

取締役等に対する規律に関連する改正として、「取締役の報酬等」に関するものがいくつかあります。今回は、その中から「報酬等の決定方針」について紹介します。

改正前においては、③指名委員会等設置会社以外の株式会社では、取締役の報酬は定款(報酬等の変更が定款変更の総会特別決議を要する)または株主総会決議で決定するとされています(361条1項)。これは、お手盛り防止を趣旨とするため、定款または株主総会決議で報酬の総額を決定し、その具体的配分は取締役の協議や取締役会の決定に委ねることができると解されます。

取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。

 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額

 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法

 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容

会社法361条1項

今回の改正では、①有価証券報告書提出会社である監査役会設置会社公開会社かつ大会社に限る)と②監査等委員会設置会社は、定款の定めまたは株主総会の決議を受けて、取締役会において「報酬等の決定方針」を決定しなければならないとされました(改正会社法361条7項)。

①の会社は、今回の改正で社外取締役の設置が義務づけられた会社でもあり、①②の会社ともに、取締役会で「報酬の決定方針」に社外取締役が関与して、報酬等の内容が取締役に対する適切なインセンティブとなっているか関与すべきと考えられること、①の会社は(今回追加的な改正が行われた)株式報酬等を活用する意義が大きいことを理由とする改正です。このため、取締役会は「報酬の決定方針」の決定を取締役に委任することはできません(改正会社法399条の13第5項7号)。

報酬の決定方針」の具体的な内容としては、取締役個人別の報酬等の種類や配分の比率、業績連動報酬等の有無や内容の決定方針、代表取締役に個人別の報酬等の決定を一任するかどうかといった内容が考えられます。もちろん、定款または株主総会決議で取締役個人別の報酬等が決定されたなら、「報酬の決定方針」を取締役会で決定する必要はありません。

また、②監査等委員会設置会社は、改正前より監査等委員である取締役とそれ以外の取締役の報酬等を区別して定めることが求められており、監査等委員である各取締役の報酬等については、定款または株主総会決議で定めていないならば監査等委員である取締役の協議で定めることとされているので(361条3項)、「報酬の決定方針」を取締役会で決定する必要はありません。なお、③指名委員会等設置会社は、報酬委員会が各取締役・執行役の個人別の報酬等の決定方針を決定するため、「報酬の決定方針」を取締役会で決定する必要はありません。

細かい内容ですが、361条で規定されていた取締役の説明義務が拡大し、2号3号だけでなく、「1号 報酬等のうち額が確定しているもの」についても理由の説明が求められることになりました。

次に掲げる株式会社の取締役会は,取締役(監査等委員である取締役を除く。以下この項において同じ。)の報酬等の内容として定款又は株主総会の決議による第一項各号に掲げる事項についての定めがある場合には,当該定めに基づく取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針として法務省令で定める事項を決定しなければならない。ただし,取締役の個人別の報酬等の内容が定款又は株主総会の決議により定められているときは,この限りでない。

一 監査役会設置会社(公開会社であり,かつ,大会社であるものに限る。)であって,金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの

二 監査等委員会設置会社

改正会社法361条7項