令和元年改正会社法~ポイント解説No.3
今回は「株主提案権」についての改正です。「株主提案権」は、議題提案権(303条1項)、議案提案権(304条)、議案の要領の通知請求権(305条1項)からなる株主の権利です。議題と議案の区別方法について会社法上の規定はなく、解釈に委ねられていますが、例えば、取締役選任の件が議題で、A氏を取締役として選任する提案が議案になります。また、株主自身が提案する議案の内容について、他の株主が事前に検討できるように、会社に対して議案の要領を株主の通知することを株主総会の8週間前までに請求できる権利を議案の要領の通知請求権といいます。
今回の改正では、この議案の要領の通知請求権に関して、取締役会設置会社においては議案の数による制限(議案10個まで)が追加されました。これは、株主提案権の濫用的な行使を制限することを趣旨とするものです。改正以前から株主提案権の濫用的な行使を制限する趣旨の規定として、①法令・定款に違反する内容の議案、②実質的に同一の議案が総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年以内の場合には、その議案にかかる株主提案権の行使が認められていませんでした(304条ただし書)が、これに加えて議案の数による制限が規定されました。
詳細に規定を見ていくと、例えば「取締役としてA氏とB氏、監査役としてC氏を選任する」という議案を「3個の議案」と数えるのか「1個の議案」と数えるのかといった論点もありますが(役員等の選任の議案は1個の議案とみなす)、短答式試験対策としては上記内容を確認しておけば十分かと思います。
株主は、取締役に対し、一定の事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。次項において同じ。)を株主総会の目的とすることを請求することができる。
会社法303条1項
株主は、株主総会において、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。次条第一項において同じ。)につき議案を提出することができる。ただし、当該議案が法令若しくは定款に違反する場合又は実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の賛成を得られなかった日から三年を経過していない場合は、この限りでない。
会社法304条
株主は、取締役に対し、株主総会の日の八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、株主総会の目的である事項につき当該株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知すること(第二百九十九条第二項又は第三項の通知をする場合にあっては、その通知に記載し、又は記録すること)を請求することができる。ただし、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権又は三百個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主に限り、当該請求をすることができる。
会社法305条1項
4 取締役会設置会社の株主が第一項の規定による請求をする場合において,当該株主が提出しようとする議案の数が十を超えるときは,前三項の規定は,十を超える数に相当することとなる数の議案については,適用しない。この場合において,当該株主が提出しようとする次の各号に掲げる議案の数については,当該各号に定めるところによる。
一 取締役,会計参与,監査役又は会計監査人(次号において「役員等」という。)の選任に関する議案 当該議案の数にかかわらず,これを一の議案とみなす。
二 役員等の解任に関する議案 当該議案の数にかかわらず,これを一の議案とみなす。
三 会計監査人を再任しないことに関する議案 当該議案の数にかかわらず,これを一の議案とみなす。
四 定款の変更に関する二以上の議案 当該二以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には,これらを一の議案とみなす。
改正会社法305条4項
5 前項前段の十を超える数に相当することとなる数の議案は,取締役がこれを定める。ただし,第一項の規定による請求をした株主が当該請求と併せて当該株主が提出しようとする二以上の議案の全部又は一部につき議案相互間の優先順位を定めている場合には,取締役は,当該優先順位に従い,これを定めるものとする。
6 第一項から第三項までの規定は,第一項の議案が法令若しくは定款に違反する場合又は実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の十分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合)以上の賛成を得られなかった日から三年を経過していない場合には,適用しない。
改正会社法305条5項、6項